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カクテルのうんちく

画家と双子と

世間にはほかにも、珍説・奇説が伝わっています。

ギブソンの誕生譚

ギブソン
マティニ

〈ギブソン〉というカクテルの誕生譚もさまざまでして。

一般には十九世紀末、「ギブソン・ガール」とまで呼ばれた特徴的な女性画で人気を博したチャールズ・ダナ・ギブソンが自分のための一杯を所望したところから、ニューヨークのザ・プレイヤーズというクラブのオーナー、チャーリー・コノリーが〈マティニ〉のオリーブをパールオニオンに変えて供したのがはじまりだとか、あるいはダナ・ギブソンみずからそのように指定してつくってもらったのがはじまりだとか、いわれています。

なるほどすらりとした「ギブソン・ガール」にオニオンの小ささや白さはよくお似合いですし、このカクテルが少なくとも禁酒法以前にうまれていたことは、複数の記録からもあきらかになっています。

もっとも、当時はインターネットなどなかった時代。情報や流行が広まるまでにはある程度時間がかかるのがふつうでしたし、その間に誤解やこじつけによる誕生秘話がうまれるのも世の習いといえましょう。

アメリカの禁酒法時代

巷間にはほかにも珍説・奇説が伝わっているのです。

なかでも、禁酒法時代にロンドンに駐在していたというギブソン大使の話が出色でしょうか。

ご存じのとおり、禁酒法というのは「アメリカ合衆国憲法修正第十八条」というのが正式名称です。

「修正」の文字を見てもわかるとおり、アメリカ人は憲法を金科玉条としてなにがなんでも守っていかなければならないと考えている国民ではないのですが、それにしても、通常の法律ではなく、憲法として定められたということは、それだけ重い意味を持つわけで。

いかにマフィアが暗躍し、各地にスピークイージーがあらわれ、「禁酒法以前より酔っぱらい方がひどくなったんじゃないか?」と外国人に皮肉られようと、アメリカ人たるものみだりに酒を飲んでよいはずはなかったのです。

まして、それが一国を代表する大使ともあればなおさらのこと。

カクテルの使い方を心得ているギブソン大使

だからこそ、このギブソン大使が「英国人がお酒を飲むのは自由だけれども、自分はアメリカ人でアメリカの憲法に縛られているのだから、お酒を飲むわけにはいかないのです」といって、レセプションの席などでは水にパールオニオンを落としただけのカクテル片手に挨拶を述べていたのだと、いわれれば、なるほど彼はアメリカ人の鑑だということになるわけですが。

そのグラスの中身に興味を引かれた人には「〈ギブソン〉ですよ」といって煙にまいていたギブソン大使。当時、アメリカから海外に出かけた人の多くは堂々と飲酒していたのですし、部下も彼にならって禁酒していたという話は聞きませんから、もちろん単なる石部金吉であっただけなのかもしれないのですが、そのわりに賓客にはしきりにカクテルをすすめていたそうですから、案外、酔っぱらった相手から本音を引き出すためにしらふでいただけだったりして・・・。

さすがは大使、カクテルの使い方をよく心得ていらっしゃる――とは思いませんか?

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