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ハピ”プロ”インタビュー | 「その道のプロ」にインタビュー。そこに在る「しあわせ」をレポート

人々のハッピーに大きく関わる“嗜好品”の働きを解き明かしたい 藤本憲一さん

ケータイは電話やメールといった本来の機能だけではなく、“不安を除去”するという効果も持っている。そんなユニークな発見からケータイを“嗜好品”の一つと捉え、若者の文化や生態を軸に嗜好品全般の研究を進める藤本憲一さん。現代の若者の嗜好品に対する接し方から、その幸せ観に大きな変化が現れていることを感じ取っているといいます。その藤本さんに、現代における嗜好品の役割と、それがどのように人々の生活に“幸せ”をもたらしているのかを聞きました。

“スウォッチ”から始まった若者文化の研究

現在の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

学生時代は哲学を学んでいました。修士号まで取ったのはいいけど、哲学で食べていくのは、まぁ難しいんですよ。教授にも「オマエは落ち着きがないから哲学者には向いていない」なんて言われましたしね(笑)。そこで卒業後は大阪で文化雑誌を作る編集部に潜り込んだのやけど、給料が安いのなんの。それでアフター5の時間に、コピーライターのアルバイトを始めるようになったんです。ただ、もともと飽きっぽいというか、なかなか一つの仕事が長続きせえへんから、同じところには3年もいなかったなぁ。編集者を辞めてからはプランナーや都市計画なんかもやりましたしね。哲学には向いてないかもしれないけど、スルスルと器用に転職して、つねに二つくらいの仕事を掛け持ちしてね。自分のことを「転職王」と呼んで、「オレは明日から八百屋もできるぞ」なんて豪語していましたわ(笑)。そんな生活を33歳くらいまで続けた後、1992年に武庫川女子大学の専任講師(1998年より准教授)になったんです。

それでメディア学を教えることになったんですね。

藤本先生が開発に携わった睡眠サポート人形「おやすみユメル」

メディア学は新しい学問だから、当時はなかなか教えられる人間がいなくて。その点、僕は、編集やらコピーライターやら、色々とメディアに関わる仕事を経験し、いちおう修士号を持っている。それで「ちょうどええわ」と、声がかかったのと違いますかね。でも最初は大学で何を研究し、教えようかと、ネタに困りましてね。それで師匠に相談したんですよ。その師匠というのは、戦後の具体美術の創始者の一人である嶋本昭三という人でね。キャンバスを切り付ける立体絵画や、大砲で絵具を打ち出すアクションペインティングを日本で初めてやるなど、現代美術の世界では非常に有名なんですけど、その人に勝手に弟子入りしていたんですよ。すると嶋本さんが「若者のファッションの研究をせなあかん」と言って、当時、流行っていたスウォッチの研究をアドバイスしてくれたんですよ。それが意外と面白くてね。その頃は日本企業による数千円の腕時計が世界的に売れて、本場のスイスを抜いた時期もあったんですね。スイスは「このままではあかん」と、国家戦略を立て始めた。それで安価だけど、奇抜でアーティスティックなデザインのスウォッチを開発するんですよ。その何がすごかったかというと、「季節個数限定」などとして増産せずに、自然にプレミアが付くのを待ったこと。その当時としては先駆的な「お宝」演出戦略が大成功しましてね。僕は同じ西脇市出身だからと、たまたま、横尾忠則がデザインしたスウォッチを買ったら、35万円まで値が上がりましたからね(笑)。

ヒマに対する不安が嗜好品を必要とさせる

そこから現在の研究テーマへと移ったきっかけを教えてください。

昔から子供の玩具に多く見られる電話機。最近ではリカちゃんが ケータイを持ったものも。

ずっと同じことをしていると、どうしても飽きてしまうんですよ。スウォッチに関する論文を数本書いて、次に同じ腕周りということでG-Shockを研究して、1995年くらいからはポケベルに移りましてね。その2年後くらいにケータイが流行りだしたから、今度はその研究を始めた。ところがケータイはなかなか廃れないから、結局、いまだに続けていて、さらに今は嗜好品全般の研究も並行しているという流れですね。普通、社会学関連の調査研究ではアンケートや統計データが基本なんやけど、僕の研究はテーマがテーマだけに街に出て若者の話を聞かないと、分からないことが多い。だからフィールドワークと称して、学生を引き連れて街をうろうろしていますよ。たとえば、ポケベルが流行った当時、当てずっぽうの番号を打って新しい友達を見つける“ベル友”という遊びが広まったんですね。路上観察をしている僕は、新聞・雑誌・テレビなどが「若者が何かおかしなことをやっているぞ」と騒ぎ立てる半年近く前には把握していて、その第一発見者ということになりました。そういう研究スタイルが好きだし、それを貫いているからこそ、大新聞の記者さんにはできない発見をして、商売として成り立っているということでしょうね。

藤本先生の研究する“嗜好品”には何が含まれるのでしょうか。

嗜好品研究のお宝が埋まる藤本研究室。初めて訪れた人は必ず驚くとか。

「気分転換のためのお気に入りの品」は、すべてが嗜好品と考えています。古くからの嗜好品といえば、お酒、タバコやお茶が定番だけど、リサーチをするほど、嗜好品の幅は広く、年代や国民性などによってバラバラなことが分かりましてね。どうして嗜好品の研究を始めたのかと言えば、ケータイがストレスを一時的に除去するアンチストレッサーの役割を持つことに気付いたからなんです。今の若者は、ヒマだったり、不安だったりする時にケータイを取り出して気分転換をするでしょ。それって、いわゆる嗜好品に対するのと同じ効果を求めているんですよ。昔だったら、お守りや鏡を見ていたのかもしれませんね。その定義からすれば、同じように、音楽もアロマも、さらにはフィギュアだって嗜好品と言えます。そのように嗜好品が多様になっているのは、もちろんモノが豊かになって商品が増えていることもあるのでしょうが、その根本には若者の“ヒマ”に対する考え方の変化があるのではないかと、僕は睨んでいます。

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プロフィール

藤本憲一さん

1958年兵庫県生まれ。武庫川女子大学生活環境学部情報メディア学科准教授。大阪大学で哲学を専攻して学術修士号を取得後、編集者やコピーライター、プランナー、都市計画などの職を経験し、1998年から現職。スウォッチやG-Shock、ポケベル、ケータイと、若者文化の研究を進める一方で、近年は「気分転換のためのお気に入りの品」はすべてが嗜好品であるとの考えのもと、嗜好品全般の研究も並行して行っている。著書に『ポケベル少女革命』(エトレ)、『テリトリー・マシン』(編著・河出書房)など。現在、『産経新聞』コラム「断」をリレー連載中。自身もフィギュアや古いおもちゃ、DVDなどのコレクターとしても知られている。

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藤本憲一さん

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