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赤松山のアベマキ林について

広島県北部の庄原市・三次市に散在する15ヶ所のアサヒの森は、いずれもブナ科コナラ属の落葉広葉樹アベマキが多く自生する自然林からスタートしたそうである。中でも赤松山は人工的に植栽したアベマキの成長によって、現在日本国内で最も充実したアベマキの森であると言われている。
私たち日本人は少なくとも数千年にわたって森に頼って生きてきた。食料が農業によって確保されるようになっても、生活のあらゆる場面で森を利用した。その際、森を構成する多くの種類の樹木について、それぞれの性質を生かした利用法を見出し、大切に使ってきた。建物を造る柱や板にはスギやヒノキを、大きな梁にはマツを利用した。タンスはキリで作り、和菓子にはクロモジの爪楊枝が添えられた。野球のバットはアオダモが最高である。木部だけでなく樹皮も利用された。サクラは茶筒や文箱の装飾に使われ、キハダからは整腸剤が抽出された。

ブナ科コナラ属のアベマキは同属のコナラやクヌギとともに西日本では普通に見られる暖温帯性落葉広葉樹であるが、その樹皮層は厚く、日本では普通は地中海地方産コルクガシの樹皮から作るコルクの代用品あるいは断熱材などとして利用された。しかし、アサヒビール株式会社の前身・大日本麦酒が行ったように積極的に植栽された例はそう多くはないと思われる。

特に赤松山のアベマキ林は林冠全体に占めるアベマキの占有率が高く、第一級(日本一)のアベマキ林と言えるだろう。同林分は標高550mから700mの東向き山腹斜面約20haに広がっていて、谷底緩斜面のスギ・ヒノキ人工林と対照的である。現在はクヌギやクリ、エゴノキなどとともに生物相の豊かな落葉広葉樹林となっており、人の手によって作られた森ではあるが、ほとんど自然林と同等であり、水源涵養機能・生物多様性保全機能など多様な環境保全機能を発揮している。

このように、赤松山のアベマキ林は、アベマキの優占する豊かな落葉広葉樹林の見本林として、日本人が森の樹木を上手に利用してきたことを学ぶ場として、そして何よりもアサヒの森誕生の歴史を知る記念林として高い価値を持つ。なお、現地近くには「森林を通して環境を考える学習会」の林間会場が設営されている。アベマキ林を利用して森林環境や森と人との関係を学ぶこの学習会が今後さらに発展することを期待したい。

アベマキ林

アベマキ林

左側が天然林、右側が人工林

左側が天然林、右側が人工林

女亀山のブナ林

女亀山は、三次市の北部、島根県との県境に位置する女亀山の東南斜面に広がっている面積114haの森林であるが、このうちブナ林は標高830.3mの女亀山の頂上および頂上直下(標高750m以上)の面積1haほどの林分で、樹齢100年以上の大木もある。この林分を含む3.64haの森林は1987年に広島県から「ブナ林自然環境保全地域」に指定された。女亀山は県境をなす稜線上の独立峰で、晴れた日には頂上から三瓶山や大山など島根県や遠く鳥取県の山々が望める。また頂上には祠があり、島根県側の飯南町からは歩道が付いていて地域の信仰の対象でもあるらしい。
よく知られているように、ブナは冷温帯落葉広葉樹林を代表するブナ科ブナ属の樹木で、その分布は、北は北海道渡島半島から南は四国・九州地方にまで広がっている。ブナはおもに裏日本型と表日本型に大別され、中国地方から北陸地方低地に存在するものは裏日本型の中でもブナ−クロモジ群集として他と区別され、広島県では北東部の比婆山地域や北西部の臥龍山・恐羅漢山に比較的まとまった林分が存在する。

ブナの生育適地は冷温帯であるが、潜在的には広島県においても標高750〜800m程度以上でかなり広範囲に分布していてよい樹種である。しかし実際には、過去に生育地の入会地化・人工林化が進んで、現在では散在的な分布となっている。女亀山のブナ林はそうした孤立した群落一つである。
ブナが裏日本型、表日本型などと地域によって区別されるのは地域によって特徴的な遺伝子を持っているからである。このような状況は「遺伝子レベルでの生物多様性」と呼ばれる。裏日本型と称される群落の中でも、さらに独立・孤立した群落同士はそれぞれ異なる遺伝子で特徴づけられる可能性がある。したがって、生物多様性保全の観点から、特に生態系多様性・種多様性とともにその骨格をなす遺伝子多様性の保全の観点から、独立・孤立したブナ林は適切に保全し、将来に遺していく必要がある。 近年地球の温暖化が論理的にも観測の事実からも明確になってきた。温暖化の進行速度が速いと分布の限界(南限・標高の低いほうの限界)近くに生存する植物は適応できずに死滅する。進行が遅い場合、ブナの生育域は北方または標高の高い地域に移行する。しかしこの場合も、女亀山のように生育地が独立峰でその山頂標高がそれほど高くない場合は、群落は消滅する運命にある。その意味で、女亀山のブナ林の保全・管理はいっそう慎重に行われる必要がある。

女亀山はアサヒの森の中でも人工林率はそれほど高くなく、ブナ林を囲んで(中間温帯)落葉広葉樹林が存在する。この林帯の主要樹種はイヌシデ・クマシデ・ミズナラ・ウリハダカエデ等で、ブナ林をコアゾーンすればバッファゾーンのようである。ヒノキを主林木とする人工林はその下部に植栽されており、全体として天然のブナ林の保全が適切に行われるように配置されている。これらの森を是非大切に保存してほしい。また、山頂まで歩道が付いているので、これらの森を「森林を利用した環境教育の場」として地域に役だてることも考えられる。

女亀山全景

女亀山全景

ブナ林

ブナ林

俵原山の“文化材”の森

俵原山は庄原市の北端、島根県との県境に位置する猿政山(標高1267.7m)の東斜面に広がる面積181haの森林で、渓流沿いの標高740m付近から山腹下部斜面一帯にスギ・ヒノキが植栽されており、樹齢は50年生に近い。その人工林率は約60%である。斜面上部や高標高地はブナ・ミズナラ・クマシデ等の落葉広葉樹林の二次林(天然生林)である。

この地域は江の川の上流支流・神野瀬川の最上流部にあたり、いわば江の川の“源流域”である。中国山地の脊梁部でもあり、森林内に生息する動物も多い。また、多雪地帯でもある。したがって、俵原山の管理・経営にあたっては、木材生産とともに、水源涵養機能、国土保全機能、生物多様性保全機能など、いわゆる森林の多面的機能を総合的に発揮させるよう計画・実施する必要がある。

実際に「アサヒの森環境保全事務所」ではそのような、いわばこの地域に最適な森林の管理・経営を進めているようである。すなわち、1960年代以降、荒廃林地への造林や保安林指定の受け入れを積極的に進めてきた。2001年にはFSC®の森林認証を取得し、人工林であっても生物多様性豊かな森になるように渓流沿いに広葉樹林を導入するなど「世界基準に基づく適切な森林管理」を導入した。さらに2009年には、大切に保育してきた人工林が将来木造文化財の修復に用いる巨木にまで育つことを願って、スギとヒノキの森林5.44haを「文化材」として登録した。

俵原山全景

俵原山全景


実はこの地域に文化材となる巨木の森を創ることは画期的なことである。なぜならば、花崗岩を基盤とするこの地域はかつて「たたら製鉄」用の砂鉄を採取する「鉄穴(かんな)場」であり、樹木の成長に不可欠な森林土壌も消失した荒廃山地であったからである。その証拠は文化材登録林の近くに鉄Aの塊を祀った(供えた)祠(ほこら)があることや、広葉樹導入のために伐採した斜面にわずかな傾斜を持った「鉄穴流し」用の水路の跡が認められることで十分である。

つまり、島根県・広島県を中心とする中国山地は、岡山県などの瀬戸内海沿岸と同様に、樹木の伐採を繰り返すと「はげ山」になり易い花崗岩地域である。そして、前者はたたら製鉄のため、後者は製塩のためにともに樹木を切りつくして、かつては荒廃山地あるいは劣化した林地であった。そこには数百年以上にわたって私たちがいま森林と呼んでいるような豊かな森は存在しなかったのである。

鉄穴(かんな)流しの跡地

鉄穴(かんな)流しの跡地

このように、「文化材」供給を目指して森を育てている俵原山地域は、かつては森の名に値しない荒廃地であったと想像できる。山腹斜面の一部は「鉄穴井出(いで)」に流す「真砂(まさ)」の採掘跡であったかもしれない。そのような場所に巨木の森が成立する・・・なんとすばらしいことだろう。そんな第一歩がいま始まっているのである。

文化材登録の記念碑が立てられた現地はいま列状間伐の実施と広葉樹林化のための渓畔域の伐採で一見不自然である。しかし、生物多様性など森林の多面的機能を発揮させながら社会に役立つ木材を生産する“真に豊かなしかも役に立つ森”を創るためにはこのような施業が不可欠である。100年後を待たなくても、20年後には俵原山は質・量ともにさらにすばらしい森になっているであろう。

「アサヒの森」の価値

手入れの行き届いたアサヒの森の杉林

手入れの行き届いたアサヒの森の杉林

近年、生物多様性の喪失や地球温暖化などいわゆる地球環境問題の深刻化に伴い、森林保護や緑化に人々の関心が集まっている。そして、エコブームに乗り遅れまいと、CSR活動に植林や林業支援を取り入れる企業が増えている。例えば林野庁の資料によると、平成20年度の企業による森林づくり活動の実施箇所数は472件で、平成19年度より45%も増加している。そして、その大部分は植林活動と思われる。確かに「木を植えよう」というキャンペーンはわかり易く、親しみやすい。しかしながら、多くの人が驚かれるが、国内に限ってみれば日本は今400年ぶりの(量的に)豊かな緑に包まれている。
過去50年間に、日本の森林の蓄積(体積)は3倍になっている。端的に言えば、木を伐らなければ植えるところはないのである。(緊急に木を植えなければならないのは途上国である。)日本で今必要なのは多面的に役に立つ森林の管理・経営である。(もし植えることにこだわるならば、もっと質的に豊かな森にするために“伐って植え替える”ことになる。)

このような状況の中でアサヒビール株式会社はもう70年も「アサヒの森」の管理・経営を続けている。確かに山林を購入したきっかけは社業に直接関係するコルクの自給対策としてのアベマキ林の取得・植林であったが、その後会社として森林を維持する必要が無くなっても山林を手放すことはせず、1950年頃からは試験的にスギ・ヒノキの植林が行われ、1960年代からは本格的に木材生産を見込んだ植林が進められたという。
このようにアサヒの森の管理・経営は近年の森林ブームに便乗したものではない。自然の恵みを生かした食品を生産する企業として、自然を大事にしている証として森林の管理を70年以上も続けてきたのである。

FSC®ロゴマーク

FSC®ロゴマーク

しかし、アサヒの森の価値はただ山林を持ち続けてきたことにあるのではない。その管理・経営の内容のすばらしさや先見性にある。すなわち、スギ・ヒノキ植林時代には、ジフィーポット鉢を使用して活着・成長の良いヒノキポット苗を全量自社で供給する育苗技術を確立したことに見られるように、高度な技術を持って地域の森林経営の模範となってきた。そのスギ・ヒノキの植林も全山を人工林化することなく自然林約25%残して2000年に終了させた後、2001年には適切な森林管理を実施している証明となる「FSC FM認証」を日本で最も早い時期に取得している。

FSC®森林認証の審査は、木材生産林であっても生物多様性の保全・向上など、森林の多面的機能の発揮を重視した適切な施業を行っているかどうかを重視して行われているものであり、認証取得後も定期的に審査されることによって、森林の質の向上に役立てることができる。アサヒの森では明確な林業経営方針のもと、そのことも利用して豊かな森林づくりに貢献している。もちろん、人工林の保育も「列状間伐」など新しい技術を用いて積極的に続けられている。

筆者はアサヒの森がこれからも地域における森林の管理・経営のモデルとなり、地域全体の森林がより豊かになるようリーダーシップを発揮されることを期待したい。

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